精神科ナースの本気メモ

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精神科病棟における離院する患者への看護~予防から看護計画まで~

はじめに

 精神科病棟における患者の離院は、アクシデント(インシデント)全体から見ると最も多い事故である。精神科に勤務する看護師であれば、誰もが一度は経験するアクシデントと言えるだろう。

 

 

1.離院の動機

 離院の動機を調べると、以下の4通りに大別することが出来る。
①患者が自身を病気でないと思っている為(病識の欠如)
②妄想や幻聴に支配された影響によるもの
③欲求不満によるもの
④その他、動機がはっきりしないもの

 自身が病気でないと思っている結果、離院を企てる患者の場合、その方法も非常に計画的である場合が多い。(次に一例をリスト化する)
・散歩や外出などなどで病棟の外に出た際に、看護師の目を盗んで離院する
・時間をかけて周到な準備をして、病棟の一部を破壊して離院する
 しかし、以上のような方法で離院を企てることは、精神科病院の解法化が進みつつある最近では、次第に少なくなってきている。妄想や幻聴に支配されて離院を試みる患者は、病識の欠如の為に離院する患者に比べ、より唐突に離院しようとする場合が多い。散歩や検査、作業療法の途中で急に飛び出して行ってしまったり、面会者を病棟内に入れる際に飛び出すしたりする。また、表情が硬いなど、なんらかの精神症状を感じさせる印象がある。
 看護師が最も苦悩するのは、離院の動機がはっきりしないものである。これは、認知症の患者や病状の進んだ慢性の統合失調症患者に多く見られる。これらの患者の場合、程度の差はあるが記憶障害や見当識障害を伴っている為、気の向くままに徘徊をしている場合がある。その場合、食事摂取や保水をせずに何日も歩き続け、身元不明のまま保護されることも少なくない。また、看護師側からすると、患者の離院行動が目立たない為に、離院時期が分かりにくい場合がある。

 

2.離院の予防の具体策

 看護師は離院を予防する為に、離院の特徴をよく学習し、看護にあたる必要がある。


病識の無い患者に対しての対処

 病識の無い(乏しい)患者にたいしては、入院の必要性をよく説明して理解を深めておくことが大切である。確かに患者は、看護師が考えているような病識は持っていないが、患者なりに困っていることがあるものである。患者によっては、病院に入院すること自体を極度に嫌っていながら、不眠や人間関係で悩んでいることがある。あるいは、人生に充実感が持てない、考えがまとまらないなど、自分自身に対して困惑している場合もある。このような患者自身の問題を患者へ説明することによって、上手に入院の必要性を理解させることが必要である。
 患者が離院を企てる背景として、病室や病棟全体の雰囲気や環境が影響している場合もある。したがって看護師は病棟全体の雰囲気を明るく和やかにするように努める必要がある。


妄想や幻聴などの精神症状に影響され、離院を企てる患者の場合

 このような患者の場合、離院防止の為にはさらに困難が伴う。離院を企てる前に、看護師は出来る限り離院に結びつくような傾向や情報を把握して、適切な処置をする必要がある。日常からとのコミュニケーションを維持し、どのような妄想や幻聴に支配されているのかを把握しておく。また、患者が妄想や幻聴に影響されて落ち着かない時に、看護師に援助を求めてくるような信頼関係を築いておくことが重要である。
 しばしば離院を繰り返す患者であれば、患者が心配するようなことが非現実的であることを、可能な限り理解しやすいように話し、患者の理解を求めるうちに現実と病的体験を区別することができるようになる場合もある。


離院の動機が分からない患者の場合

 患者が記憶障害や見当識障害を持っていることを考えて、外に連れ出した時は、患者を看護師の視野にとどめておくことが重要である。あるいは運動や作業などの場面では、このような患者があらかじめ何名いるのかを把握して、注意を怠らないようにすると良い。


欲求不満が原因で離院を企てる患者の場合

 動機をよく確かめ、改善しなければならない。患者の多くは病室の環境、看護師の対応、治療の仕方、入院時の対応などについて不満を持つことが多いので、あらかじめこれらの改善に努め、患者に不満を与えないようにする必要がある。

 

 

3.離院した患者への対応

 患者が離院してしまった場合、患者の病室をはじめ、病院の周囲、患者が行きそうな場所などを探す必要がある。患者の早期発見の為、普段から患者の行動パターンを把握する必要がある。そうすることで、患者の行きそうな場所を予測しやすくなる。例えば、患者によっては知人やの家を訪問していたり、近所の店に行くなど行動に特徴がある場合があるからである。
 病院の周囲を探し、患者を発見できなかった場合は、早急に家族へ連絡をして、様子を見るのも一つの方法である。
 妄想や幻聴などの精神症状の影響により、離院を企てた患者の場合、その離院の動機をつかみにくい。このような場合、患者の行き先の見当をつけるのが困難である場合が多い。体力の続く限り徘徊を続けた結果、最悪の場合、そのまま命を落としてしまう場合もある。患者の捜索に努め、万が一、患者を発見できなかった場合、主治医と相談のうえ保護願を提出する必要がある。
 患者を発見出来た、または患者が自ら病院へ戻ってきた場合、いきなりその非を叱ったりすることは好ましくない。温かく患者を迎えいれ、緊張した心理をやわらげ、休養を取らせる。体力が消耗し、衰弱の強い患者の場合、まず、栄養の補給と保水に努める。患者の身体的・精神的回復が出来たら、徐徐に離院の動機などを傾聴し、入院の必要性を理解させていく。