精神科ナースの本気メモ

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精神科における保護室隔離の看護と観察、精神的フォローの具体的実践について

 

はじめに【隔離の概要】

 隔離とは、自分の意志では出ることが出来ない部屋に一人だけ入室し、他の患者から遮断することで、精神保健及び、精神障害者福祉法に関する法律(精神保健福祉法)に基づいて運用する。隔離の使用目的は以下の通りになります。


~隔離の使用目的~

① 他の患者との人間関係を著しく損なう恐れがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪影響する場合。
② 自殺企図、または自傷行為が切迫している場合。
③ 他の患者に対する暴力や著しい迷惑行為、器物破損等が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない状態。
④ 急性運動性興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な状態。
⑤ 身体合併症を有する患者で、検査及び処置等の為、隔離以外に良い代替方法が無い場合において行う。また、本人が自ら隔離を望む場合も隔離室使用の対象となる。

 上記より、隔離室を使用する意図は、あくまでも患者や周囲の人の危険を回避し、かつ隔離をすることによって、心身ともに安全と安静を保証する事である。
 

 

隔離実施時の看護と観察

 隔離室の使用にあたっては、精神保健指定医でない医師の場合は12時間以内に限られ、12時間を超える場合には精神保健指定医の診察による隔離継続の指示が必要になります。

看護師は隔離室使用時には以下のことを観察していく。
 患者の精神状態が著しく不安定であり、自分自身をコントロールできていない状態か、他の患者との人間関係を著しく損なう恐れがあるかを観察する。
🔳 他の患者に理由もなく怒り続けている。
🔳 幻覚・妄想に支配されて大声を出し続けている。
🔳 自傷行為の有無
🔳 自殺企図の有無
🔳 他の患者に対する暴力行為、迷惑行為の有無
  上記のような言動(症状)などの有無を観察しましょう。また、その言動が患者の病状の経過や予後に悪い影響を与えるかどうかを予測しておきます。自殺企図、自傷行為が切迫している状態にあるかを観察しましょう。それらの状態を観察した上で、本人に原因や理由を確認する様々な介入を試み、本人が自分自身をコントロール出来ている状態かどうかを多職種にて評価する。
 他の患者に対する暴力や著しい迷惑行為(ex.他の患者を叩く、ホールの椅子を投げる。ガラスを割るなどの器物破損行為)が認められる場合において、隔離以外の方法では、これを防ぎきれない状態であるか判断する。ただし、患者本人の症状以外にも、本人に対して干渉や挑発するような人がいたか、刺激となる出来事があったかといった環境についても把握しておく。
 また、身体合併症を有する患者で、胃カメラや注腸検査などの検査及び処置等に必要な制限が守れない危険性が高いと評価した患者には、必要な制限が出来ているか観察する。
 看護ケアを行った後には、精神症状の変化の有無、患者の反応(ex.看護師の言葉が理解出来ているか、隔離が必要となる理由の行動が減少しているかあるいは増悪しているか)に注意を払う。
 
 

離実施前の看護と観察

 隔離を要する条件に当てはまると判断した場合には、患者本人に対し文書を用いて以下2点を説明する。
 🔳 隔離が必要となった理由。
 🔳 どのようになれば隔離が解除になるのかといった解除の基準。
 その際、患者が説明をどの程度理解したかを観察する。理解が得られていない事由については、患者が理解しやすい説明を心掛け、理解度が低い場合にはその都度説明をしてく。具体的な観察ポイントの例をリスト化します。
 🔳 説明に対して頷いている。
 🔳 説明の文書を破っていないかどうか。
 🔳 医師や看護師に対して「こんな部屋に入れられる覚えはない。」「仕返ししてや      

   る。」などの発言や攻撃的な態度の有無。
 しかし、頷いていても理解していないことがある。したがって、患者の理解度を確認する為、隔離の説明がどのような内容だったかを質問し、その返答によって理解度を評価する。また、患者の病識の有無、あるいは病識は無いが、本人も症状を苦痛に感じて何とかしたいと思っているかを、「自分で自分をコントロール出来ない」といった発言や「私は病気じゃないのに部屋に入れられている」といった発言からアセスメントする。

 

患者の精神症状の観察

 患者の精神症状については、精神運動の興奮状態から観察する。具体例をリスト化します。
 🔳 落ち着きなく動き回る。
 🔳 他の患者に干渉する。
 🔳 叫び続けている。
 🔳 攻撃的な発言がある。
 🔳 看護師や他の患者に暴力を振るおうとするか。
 🔳 希死念慮があるかを観察する。
 🔳 隔離に対し、不安や恐怖を表現する言動の有無。
 入室の際は患者の安全を確保する必要性を説明し、複数名対応の上、ボディチェックを行い、貴重品(財布や現金)を持っているか、危険物(タバコ、ライター、刃物、アルコールや化学薬品、その他危険につながるもの)がないかを観察し、必要時本人説明した上で預かる。

 

 

 離実施中の看護と観察

~精神症状~

 隔離室を使用することは患者が非常に強い拘束感を持つため、隔離の継続が必要かどうか、隔離が必要になった精神症状が持続しているか、改善しているかを観察して、少しでも早く隔離が解除出来るように援助していく必要がある。観察のポイントを以下に示しておく。
 幻覚、妄想に強く左右されている症状の有無。具体例をリスト化します。
🔳 「死ね」「飛び降りろ」「ヤクザが殺しに来る」といった言動
🔳 暴力や多動の有無。
🔳 易怒声、爆発性の有無。(怒り続けている、大声を出し続けている)
🔳 自殺企図、自傷行為の有無(「死にたい」といった言動、壁に頭を打ち続ける。爪  

  で皮膚を傷つけるなど)
 また、看護師が現実的な方向に導く時に介入を行った時の反応を観察したい。例えば、どの程度の時間、現実的な話やまとまった会話が出来るのか、天気や気候などの社交的な話に対して反応があるかを観察する。訪室の目安として30分に一回は訪室し観察する。
 

 

 

隔離解除への支援

 入室時には興奮が強く、物事を理解できない状態であることが多い。その為、入室後には患者が物事を理解できるようになった時点で再度、隔離が必要になった理由と、患者がどのようになれば隔離が解除できるようになるのかという隔離解除の基準を患者に説明し、どの程度理解できているかを判断する。
 なぜ隔離が必要になったのか、また、隔離解除後の基準の達成度について、何がどの程度良くなっていて、何が不十分なのか、患者自身がどのように感じているのかを患者と話し合う。具体例をリスト化します。
 🔳 医療者との疎通性(ex.問いかけに対しての返答の有無、要求の内容や頻度、緘黙
   状態ではないか)
 🔳 興味のある話は何か。
 また、隔離室を時間開放した時の観察の視点をリストします。
 🔳 他の患者との関係性。
   ・話の内容は場に合っているか。
   ・まとまりのある会話は出来ているか
   ・干渉的かどうか。
 🔳 薬物療法の効果
   ・向精神薬の量と種類
   ・精神症状の変化を観察する。
 🔳 錐体外路症状や悪性症候群の兆候。
 
 
 

日常生活行動の看護と観察

 日常生行動については、自力で行えるか、声をかければ行えるか。部分的な介助の要否など、患者の日常生活行動の自立度を観察・アセスメントする。
【食事】
 食事は食事摂取量、摂取時の嚥下状態を観察する。水分摂取については、脱水の兆候がないか、逆に水やお茶を飲みすぎていないか観察する。
【排泄】
 排泄については、向精神薬の多量投与による副作用から、尿閉や便秘になりやすい為、排便状況の問診・視診をする。排尿の有無が観察できない時は腹部膨満の有無を観察し、必要時導尿を検討する。
【睡眠】
 睡眠については、早朝覚醒、中途覚醒、入眠困難などの有無の観察をする。また、昼間の午睡はとれているか、よく眠れたと言うか観察する。
【清潔】
身体の清潔が保たれているかを観察する。具体例をリスト化します
🔳 歯磨きをしている
🔳 髭剃りをしている
🔳 入浴できているか
🔳 発汗・排泄物による皮膚の汚染の有無
🔳 更衣のができているか、
🔳 褥瘡や皮膚の損傷はないか
 看護師は、患者が強い閉塞感を感じる隔離室(保護室)の中で、少しでも快適に治療に取り組むことが出来る様に環境整備をします。具体例をリスト化します。
🔳 排泄物の臭気が残っていないか。
🔳 換気は出来ているか。
🔳 室温・湿度は適度に保たれている。
🔳 照明は適度。
🔳 排泄物やゴミなどによる室内汚染はないか。
 
 

隔離解除後の看護と観察

 隔離解除の際に最も重要な観察のポイントは何でしょうか?それは、隔離が必要となった状態(症状)が再燃していないかを観察することである。具体例をリスト化します
🔳 自殺や自傷のリスクの有無。
🔳 暴力のリスクの有無。
🔳 幻覚妄想状態や興奮状態の有無。
🔳 他の患者と良好な関係(交流)が保たれているか。


薬物療法

 服薬については、処方された薬を自ら内服するか、副作用はないかに注意する。

 
 

隔離解除後の精神的フォロー

 隔離が必要となった症状が無い場合、隔離がどのように役立ったのかと患者が感じているのか、何が自分にとって役立ったと思っているのか患者と共に振り返る時間を作る。患者が解除目標の状態が維持できるように、不眠や不穏の時には自ら頓服薬を使用できるように指導する。また、気持ちが落ち着かないなど、不穏な状態になった際に、他の患者と距離を取ることが出来ているかを観察し、出来ていなければ距離を取り、看護師に報告するように指導する。また、死にたいという気持ちになった時に相談できる人がいるか、問題への対処について患者と話しあっておく。患者にとって刺激となることが増えたホールや一人部屋、大部屋に適応できているか、例えば「隔離室に戻りたいです」などの発言の有無を観察する。