精神科ナースの本気メモ

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統合失調症の看護過程・看護計画(OP、TP、EP)のための必要な情報収集とその評価アセスメント、主な看護問題に対する成果目標達成の為の具体策例

 

この記事の内容

 

 

 

 


必要な情報収集項目とそのアセスメント

1.患者背景

①現病歴

 ・発症の時期

 ・入院、治療の経過

 

②現在の症状

 ・陽性症状 (幻覚、妄想などの異常体験、滅裂思考状態、興奮、昏迷など)
 ・陰性症状 (感情の平板化など)
 ・認知機能所外
 ・感情障害(憂鬱な気分、不安、いらいらなど)

③既往歴

④職業、経済状況

⑤家族歴、家庭環境、生育歴

⑥病前性格

 (補足) 発症初期や症状が再発した急性期では、陽性症状である異常体験が生じることが多い。妄想・幻覚をはじめとした異常な体験や感情障害により、患者は不安、緊張が強くなる。周囲の人の接触性が失われ、話しかけれても反応しなくなり、表情は硬く冷たく、あるいは困惑した状態になる。しかし、周囲に反応しない場合であっても、外界に対しては敏感である。看護師は受容的に関わり、不安、緊張の程度を把握していく。

 

 

2.全身状態

①栄養状態

 ・食事内容、摂取量、食欲の有無
 ・身長、体重、体重の変動
 ・口腔、皮膚、粘膜の状態
 ・検査データ
 (TP、Alb、Hb、Na、Kなどの電解質)

 (補足) 思考の障害として、関係妄想、被害妄想が出現する。食べ物に毒を入れられるという被毒妄想では、拒食的になる場合が多い。慢性期では陰性症状である自発性の欠如によって、食事への興味さえ失ってしまい、自閉状態になることもある。したがって、水分の不足、栄養状態の低下をまねき、脱水、栄養障害に陥る可能性がある。また、精神症状が強い場合は清潔の保持が困難となり、尿路感染などの感染症を起こしやすくなる。
 

 抗精神病薬服用により、食欲が亢進し、体重増加をきたす場合や急性期には、多飲により低ナトリウム血症を起こし、時に水中毒を起こし致命的になる場合がある。また、耐糖能異常を起こすことがあるので、全身状態を十分に観察し、血液・電解質データにより、全身状態を把握していく。

 

#A 心理的要因に関連した栄養摂取/消費バランス異常:必要量低下

 

 

②代謝状態
 ・代謝性疾患の既往歴
 ・検査データ(血糖値、肝機能)

 

③排泄状態
 ・排便の回数、量、異常
 ・腹部症状(圧痛、筋性防御、ガス)
 ・便通対策、排便支障因子
 ・排尿の回数・性状、異常
 ・水分出納
 ・排尿支障因子

 

④身体合併症
 ・他の精神疾患との鑑別検査
 ・尿検査、髄液検査、画像検査
 (補足) 幻覚、妄想や自閉症状により、患者は治療が必要な身体状態を訴えない場合がある。常に全身状態、検査データを把握し、合併症を予防する。被毒妄想。自閉状態が強い場合は、覚せい剤など薬物依存や脳炎などの鑑別のために、尿検査、髄液検査、画像検査などが行われることもある。症状と検査データを照合し、全身状態を把握する。

 


3.活動と休息のバランス

①日常生活での活動状況

②ADLの程度
 (補足) 急性期では幻覚、興奮状態などにより、日常生活に支障をきたし、援助が必要となる。急性期症状が落ち着いた慢性期においても、感情・意欲低下を残すことが多い。障害の程度により、日常生活の自立度は異なる。障害が重度のである場合、無関心で、意欲欠如の状態となり、身体もふ不潔で、ときに失禁していたりもする。清潔で規則正しい、日常生活を送れているか情報収集していく。

 

#B 意欲の低下に関連した入浴セルフケア不足

 


③睡眠状態、睡眠薬の与薬状況

 (補足) 幻覚、妄想による緊張と不安は睡眠状態に影響する。不安や緊張の緩和をはかり、可能であるかぎり、十分な休養がとれているか観察する。

 

④精神症状

 ・陽性症状 (幻覚、妄想などの異常体験、滅裂思考状態、興奮、昏迷など)

 ・陰性症状 (感情の平板化など)

 

 

4.知覚・認知の状態

①病態・疾患についての知識と反応
 ・疾患の受容の状態
 ・治療

 

②服薬状況
 ・薬剤の種類、量、服薬持続の有無
 ・服薬についての知識
 

 (補足) 一般に統合失調症患者は、自らが異常な状態にあることを認識することが出来ない。異常体験については、症状消失後に認識するような発言をする場合もあるが、多くの場合は病識が無く、病状の悪化に気付かず、受診をしないこともある。

 

 また、退院後は、薬剤の服用を中断することがあり、さらに自閉的、柔軟性の不足により社会生活のストレスが生じやすく、再発しやすくなる。

 

 

#C 状況的危機に関連した非効果的コーピング

 

 

 

 

 定型抗精神病薬は、陽性症状に有効とされているが、起立性低血圧や、口渇などの自律神経障害、パーキンソン様症状などの錐体外路症状、悪性症候群などの副作用が出現する場合がある。非定型抗精神病薬は、陰性症状にも効果がると期待されている。しかし、耐糖能異常が起きる場合がある。効果的な治療への援助が必要となる。

 

③受診状況
 ・定期検診の有無
 ・受診時の反応

 

④再発症状
 ・抑うつ気分
 ・思考力の低下
 ・不眠
 ・頭痛
 ・易疲労感など
 (補足) 不安、緊張が強いと急性緊張状態となったり、妄想の内容が被害的性格を帯びる。すると、幻覚と結びつきはってんして、衝動行為を起こすことがある。そして、自分自身や周囲の人間を傷つけてしまう事にもなりうる。患者の状態を十分に把握し、患者および周囲の安全を守る。

 

⑤コミュニケーション能力

 

#D 情動的な問題(不安、緊張)に関連した対自己暴力リスク問題

 

#E 情動的な問題(不安、緊張)に関連した対他者暴力リスク問題

 

 


5.周囲の認識・支援体制

①家族関係
 (補足) 統合失調症は慢性に経過する疾患であり、発症より長期に治療が必要である。したがって、家族に及ぼす影響や負担が大きい。

 

②職業
 (補足) 社会復帰に際して、また、再発予防に関しては、患者への支援のみならず、家族および周囲の人への支援を行う必要がある。家族の辛さや負担を理解し、問題や治療に対する十分な情報を提供する。困難や混乱を生じている場合はサポートをする。症状が慢性・固定化した場合でも、症状や能力に応じた職場復帰への試みが重要である。

 

③経済的な状況

④周囲の人間との人間関係

⑤外泊時の家族および周囲の受け入れ、協力度

⑥家族の疾患への理解度、言動

⑦家庭内での役割と日常生活状況
 ・家族への依存の有無と程度
 ・生活のリズムなど

 

⑧リハビリテーションプログラムへの参加状況

・プログラムの内容

・参加方法

・患者の反応

 (補足) 統合失調症は思春期から成人初期に発症するため、社会生活能力が不十分となる場合がある。また、感情鈍麻、意欲低下など感情障害により、周囲の人への関心がなく、対人関係も悪く、社会生活に適応出来ない場合も多い。精神療法や、社会復帰に向けたリハビリテーションプログラムへ(薬剤の自己管理、症状自己管理、基本的な対話技能の訓練など)の参加状況などを観察する。

 

#F 自己概念混乱に関連した社会的相互作用障害

 

 

 

 

主な看護診断と患者の目標(成果目標)

#A 心理的に要因に関連した栄養摂取/消費バランス

 患者の目標(成果目標)

 ・栄養状態の悪化を起こさない

 

 

#B 意欲の低下に関連した入浴セルフケア不足

 患者の目標(成果目標)

 ・必要な入浴行動をとることが出来る

 

 

#C 状況的危機に関連した非効果的コーピング

患者の目標(成果目標)

 ・約束した受診行動をとることが出来る

 ・服薬を継続する

 ・再発の兆候(不眠、抑うつ、日常生活の変化など)が生じない

 


#D 情動的な問題(不安、緊張)に関連した対自己暴力リスク問題

 患者の目標(成果目標)

 ・幻覚、妄想や感情障害により自分に対する暴力行動をしないことが出来る。

 

 

 #E 情動的な問題(不安、緊張)に関連した対他者暴力リスク問題

 患者の目標(成果目標)

 ・幻覚、妄想や感情障害による不安、緊張、恐怖について表出することが出来る。

 ・幻覚、妄想が生じている場合、看護師の援助により現実に戻ることが出来る。

 

#F 自己概念混乱に関連した社会的相互作用障害

患者の目標(成果目標)

 ・引きこもりが解消し、他者と関わることが出来る。

 ・対人関係がスムーズになる。

 

 

 

 


統合失調症の看護計画(具体策)の例とエビデンス


#D 情動的な問題(不安、緊張)に関連した対自己暴力リスク問題

患者の目標(成果目標)

 ・幻覚、妄想や感情障害により自分に対する暴力行動をしないことが出来る。

 

#D に対する観察計画(OP)

(1)緊張、不安症状の程度

 ①神経衰弱症状

 ・抑うつ気分

 ・思考力

 ・記憶力の低下

 ・頭痛

 ・易疲労感

 ・不眠

 ・不活発な行動
 

 (根拠) 緊張、不安や感情障害が強いと急性緊張状態となり、妄想の内容が被害的となるため、衝動行為を摂ることがある。

 

 ②妄想、幻覚、思考障害、させられ体験、感情障害、意欲障害、行動障害

 ③症状の経過

 ・急性期、急性症状からの回復期、慢性期

 (根拠) 自殺は急性の精神症状に支配された時期だけでなく、急性症状の消失直後や慢性経過の中においても起こりうる。急性の幻覚・妄想が改善し、病識が出始めた時に心理的な衝撃を受ける。また、慢性疾患を抱えながら生きていく困難による多くの問題のために自殺に至る場合もある。

 

 

(2)環境

①部屋の環境、ベッド周囲の危険物の有無

 (根拠) 緊張状態による事故の危険性があるため、安静が保持できる環境であるか、事故防止が考慮されているかどうかを確認する。

 

 

(3)治療内容とその効果、副作用

 ①薬剤の種類、量、与薬期間

 ②薬物療法による症状の変化

 ③副作用の有無と程度

 ④肝機能・血液検査データ

 (根拠) 抗精神病薬による副作用の出現がないか注意する。また、薬剤が効果的に作用していない場合、不穏状態となり自損行動に出る場合もある。

 

 

(4)食事摂取状態、栄養状態

 ①食事の内容・種類

 ②食事摂取量

 ③食事摂取方法

 ④食欲の有無

 ⑤労作量

 ⑥体格(身長、体重、BMI)

 ⑦皮膚状態

 (根拠) 被害妄想や自閉状態により、食事や薬剤の拒否が観察されることがあり、症状が悪化し自己損傷のリスクがある。

 

 

(5)睡眠状態

 ①睡眠時間・深さ

 ②入眠と覚醒時刻、睡眠の中断

 ③睡眠薬の与薬状況
 (根拠) 薬剤の拒否により睡眠不良となる事がある。また、睡眠状態は症状の程度を示す指標となることもある。

 


#D に対する看護ケア計画(TP)

(1)保護的体態度での援助

 

①常に温かい態度で接する

 (根拠) 患者が周囲に対して反応しない場合であっても、患者は外界に対して敏感である。

 

(2)幻覚、妄想により緊張、不安、恐怖を持つ患者の思いや苦悩に対する受容的態度

 ①幻覚内容については否定も肯定もしない。

 ②幻覚、妄想を聴き出さない。議論したり、説得しない。

 (根拠) 急性期では、幻覚・妄想に対しておびえ、その実体を信じている。そのため、受容的に接することで、緊張・不安、恐怖を軽減することが出来る。
 否定は看護師への不信感や患者の孤立感を増し、同意は幻覚、妄想を助長する。また、聞き出すことは妄想世界を拡大する。議論や説得も妄想を増大させ、看護師との信頼関係の成立を妨げる。

 

 

(3)環境の調整

①刺激の少ない安静が保持できる環境とし、個室で危険物が無く、十分に観察することが出来る環境を調整する。

 (補足) 急性症状の鎮静や抗精神病薬の効果を高めるためにも必要である。また、緊張が強い場合には、自損・他害行動の危険性があるので、個室で十分に観察できるようにする。

 

 

 

(4)抗精神病薬の適切な投与

①拒薬がみられる場合は、その理由を十分に聞く。

②拒薬の理由、患者の心配していることを確かめ、その後に服薬を勧める。

③被毒妄想や幻覚による拒薬が強い場合は、時間をおいて比較的おだやかな時に勧める。
 (補足) 急性症状の鎮静、消失を図るには、まず適切な薬物療法が必要である。興奮が強く、経口摂取出来ない場合には、筋肉注射や持続点滴注射が行われる。

 (根拠) 急性期では、幻覚・妄想による拒薬が見られることがある。

 

 


(5)抗精神病薬の副作用予防対策と出現時の対処

 

①患者が長時間強い日光に当たらないようにする

 (根拠) フィノチアジン系薬剤(クロルプロマジン塩酸塩[コントミン、ウィンタミン]など)は、日光皮膚炎起こしやすい。

 

②肝機能の血液データを観察し、異常時には速やかに報告する。
 (根拠) 肝機能障害は初期から副作用として出現しやすい。顆粒球減少症も時に出現する。

 

③ベッド周辺整頓し、ベッド柵などをつけ事故防止策を講じる。
 (根拠) パーキンソン様症状による事故防止をする。

 

④急に気上がらに様に注意する

 (根拠) 起立性低血圧による事故を防止する。

 

⑤水分補給と下剤の適切な投与

 

 

(6)食事摂取への援助

①根気強く自分が食べるような気持ちで促す。
 (根拠) 幻覚、妄想や自閉症状により、拒食が観察される場合がある。拒食は栄養状態悪化、体力低下をきたし全身に悪影響を及ぼす。

 

②十分に訴えを聴いたうえで勧める

 (根拠) 幻覚、妄想がある場合は、気になっている事柄を長々と訴える。被毒妄想がある場合には、聞いてもらうことで患者は安心する。

 

③食事内容を看護師が試食して確認したり、食事を取り替えたりする。

 

④経管栄養による栄養管理
 (補足) 頑固な拒食が続くことで、全身状態への影響が予測される場合、経管栄養による栄養管理が必要となる。


(7)睡眠への援助

 ①安静が保持出来る落ち着いた環境に調整する。

 ②睡眠薬の適切な投与
 (根拠) 不安、緊張、恐怖を軽減する。

 

 

#D に対する教育計画(EP)

(1)家族への情報提供

 ①症状

 ②治療

 (根拠) 家族が疾患・治療を理解することにより、不安が軽減する。

 

 

#F に対する観察計画(OP)

(1)服薬状況

 ①薬剤の種類、量

 ②服薬持続の有無、服薬に対する認識

 (補足・根拠) 寛解状態を把握し、再発兆候を早期発見する。再発の原因として、服薬の中止が最も頻度が高い。定期的な受診行動は病識があることを示すものであり、効果的な再発防止となる。


(2)受診状況
 ①定期受診の有無、受信時時の反応

 

(3)再発症状の有無と程度
 ①抑うつ気分
 ②思考力の低下
 ③不眠
 ④頭痛
 ⑤易疲労感
 (根拠) 再発により、日常生活が不規則になり、セルフケア不足の状態になる。

 

(4)家庭内での役割と日常生活状況
 ①家族への依存の有無と程度、生活リズムなど

 

(5)リハビリテーションプログラムへの参加状況

①プログラムの内容

②プログラムの参加方法、反応

③プログラムの反応

 

(6)通学、通勤状況

 

(7)支援体制の状況

 ①家族、友人、学校の教師、職場の同僚・上司など

 ②地域の保健所や、保健衛生センターの保健師、

 ③心理療法士

 ④医師

 ⑤看護師
 上記のような専門家

 (補足) 再発防止には、周囲の支援体制が不可欠である。周囲の支援者とその支援内容について把握する。

 

 

 

♯F に対する看護ケア計画(TP)、教育計画(EP)

(1)服薬持続への援助

①服薬の確認

②適切に服薬されていない場合は、その理由を確認し、状況に応じた説明を行う。

 (根拠) 寛解状態でも、再発防止のため、少量の薬剤を服用することが、最低でも、2~3年程度必要となる。

 

 

(2)患者を取り巻く支援システム作り

 ①家族、友人、職場の人々、学校の教師

 ②患者会の人々、保健師、心理療法士

 ③医師、看護師など

 (根拠) 社会生活のストレスにより、再発、病状を悪化しやすい。そのため、周囲の人々の協力、理解を得る必要がある。また、組織的支援により、個人、家族の負担を軽減することが出来る。その上、幅広い援助に繋がる。

 

 

(3)再発兆候への援助

 ①十分な休養をとるように説明し、家族および周囲の人との連絡・調整を図る。

 ②支持的態度で接する

 ③薬剤変更に伴う服薬指導を行う

 (根拠) 再発兆候に対する適切な援助により、再発防止につながる。