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気管支拡張症の看護過程・看護計画(OP、TP、EP)のために必要な情報収集とその評価、アセスメント、看護問題に対する具体策


気管支拡張症の看護過程・具体策の展開とその評価の視点

 

本記事の内容

 

 

 

 

気管支拡張症患者の必要な情報収集項目とその解釈・アセスメント

 

1.対象となる患者の生活背景

①現病歴
 気管支拡張症は特定の疾患が原因となるわけではなく、遺伝など先天的要素や、過去の感染症の罹患及び生活環境など様々な要因で発症する。また、症状が出現した時には、疾患が既に進行していることが少なくないのも特徴である。
 肺がんなどのが気道を閉塞させ、発症の原因となることもある。職業による有害物質の吸引や水晶などの鉱物の吸い込みによって発症する場合もある。

 

 気管支拡張症は、症状がほとんどなく経過している場合が多く、疾患を認識しにくいのが特徴である。日常生活の中で、少しずつ症状が深進行していく病変であり、完治はすることが無い。そのため、自己管理が必要不可欠になる。自己の行動を変容するのか、それとも他者や外的要因に期待すぃていくのかを観察していく。

 

 原因疾患が特定されているのか、また、その治療はどのように行われているのかを把握していく。

 

②既往歴
 ・幼少期の肺炎罹患
 ・重症呼吸器感染症
 ・胃酸の逆流や誤嚥

 

③家族歴
 ・遺伝性疾患

 

④職業
 ・有毒物質の取り扱い
 ・粉塵

 

⑤生活習慣
 ・喫煙
 (コメント)喫煙はストレスに対するコーピングであることが多い。また依存性を持っている。喫煙により有害物質を吸入し、気道の慢性的な感染を引き起こし、健康管理に影響を与える。


⑥生活信条・価値観

 

 


2.全身状態の観察

①栄養状態
 ・食事摂取内容、量、食欲
 ・水分摂取量
 ・悪心、嘔吐
 ・体重(の変化)
 ・皮膚、粘膜の状態
 ・検査データ(TP、Alb、Hb)
 (コメント)気道感染により、発熱、咳嗽などの症状が出現する。これらの症状により食欲低下がみられ、必要な栄養摂取が出来なくなるると、体重減少につながる。また、気道感染の治療のため、抗生物質が投与されるが、抗生物質の副作用として、消化器症状が出現することがある。

 

#A 食物を摂取出来ないことに関連した栄養摂取ー消費バランスの異常

 

 

②体温
・発熱、熱型、倦怠感
 (コメント)発熱により、発汗など体内の水分排出量が増える。また、食欲不振による水分摂取量不足が加わることにより、水分出納バランスが崩れ、脱水に傾きやすいので注意する。

 

#B 調節機能の障害に関連した体液量不足

 

 

③排泄状態
・排便回数、性状
・便秘、下痢の有無
・腹部症状
・排尿回数、量
・発汗の程度
・水分出納

 

 

 

3.活動・休息のバランス

①日常生活での活動状況
 (コメント)普段は自覚症状がない場合でも、気道感染を起こすと咳嗽や喀痰が観察されるようになる。痰は膿性であり、多い場合だと、100ml/日以上の喀痰が観察される事もある。咳の発作や多量の痰は呼吸困難に繋がり、夜間の睡眠を妨げる原因となる。また、呼吸困難のために、十分な酸素供給がされていないことにより、倦怠感が生じ、活動に影響を与える。

 

②ADLの程度と変化

 ・入院前の活動状況

 ・活動時の生理的変化

 ・睡眠時間、不眠の有無


③呼吸器症状
 ・咳嗽、喀痰の有無と程度
 ・痰の量と性状
 ・喘鳴、呼吸困難
 ・酸素飽和度の低下の有無
 ・呼吸音
 ・血痰、喀血の有無と程度
 (コメント)気管支拡張症では、気道感染により膿性痰を100ml/日以上排出する事ある。加えて、発熱による体内の水分排出量の増加、食欲不振による栄養摂取量、水分摂取量の低下から脱水に傾きやすい。脱水になると、痰の粘稠度が増し、痰が気道壁からはがれにくくなり、喀痰が難しくなる。喀痰が不十分であると、気道の閉塞を起こし、肺胞低換気からガス交換を障害する。

 

♯C 分泌物の貯留に関連した非効果的気道浄化

 

 

 

 

4.知覚・認知

①病態・疾患についての知識
 ・治療
 ・感染予防
 (コメント)疾患の知識不足は、自己管理を困難にする。気道の感染や炎症の繰り返しにより気管支拡張症を悪化させてしまう事を理解し、感染予防行動の知識と理解の程度を観察・把握していく。

 

②心理状態
 ・不安
 ・ストレスコーピング
 (コメント)気管支の炎症に伴う気道閉塞により、必要な酸素量を取り込むことが出来ず、息苦しさを感じていることもある。息苦しさから日常生活に支障をきたし、ストレスを感じていることもある。日常生活の制限や他者への依存などは、自己イメージが否定的に変化する。

 

 不安やストレスは苦痛を増強させる。また、苦痛が不安やストレスを増強させるため、悪循環を生みやすい。それにより、血管収縮を引き起こし、酸素消費量を増加させ、呼吸の仕事量を増加させることになる。
 初期症状が血痰や喀血の場合がある。血痰や喀血は活動や安楽を阻害するだけでなく、不安や死の恐怖をもたらす。

 

♯D 健康状態に関連した不安

 


③コミュニケーション能力

 

④苦痛の有無
 ・息苦しさ
 ・倦怠感
 ・悪心、嘔吐

 

⑤自分の状態の受け止め方
 ・自己イメージ

 


5.周囲の認識、支援体制

①家族構成

 

②家庭的役割

 

③キーパーソンの有無と認識

 

④職業
 ・職場環境
 ・仕事の種類、内容、継続状況

 

⑤社会的役割
 ・社会生活での活動状況
 (コメント)気管支拡張症は慢性的な経過をたどる。その為、家族が健康管理に参加できる状況であるか情報収集していく。また、家庭環境や家族の協力体制などの詳細な情報も収集する必要がある。高齢者の場合は経年的に呼吸機能が低下している場合もあり、在宅での生活維持のための社会資源活用状況の情報も収集していく。
 

 気管支拡張症は若年で発症する場合もあり、就労に影響することもある。職場環境が気管支拡張症発症に影響しているばあいは、退職を余儀なくされる場合もある。よって、経済的基盤を失うことになる。これらの理由から、患者・家族の就労状況も把握していく。

 

 

 

主な看護診断と患者の目標(成果目標)

♯A 食物を摂取出来ないことに関連した栄養摂取ー消費バランス異常

患者の目標(成果目標)

 ・発熱や咳嗽の症状が治まり、食事を必要量摂取することが出来る。

 

 

♯B 調節機能の障害に関連した体液量不足

患者の目標(成果目標)

 ・体温が性状になり、水分不足が改善する。

 

 

♯C 分泌物の貯留に関連した非効果的気道浄化

患者の目標(成果目標)

 ・効果的な咳嗽法を自ら実践することが出来る。
 ・体位ドレナージを実施出来る。

 

 

♯D 健康状態に関連した不安

患者の目標(成果目標)

 ・不安を言葉で表出することが出来る。
 ・不安の軽減する方法を実施する事が出来る。

 

 

 


気管支拡張症の看護計画(具体策)

 ♯C 分泌物の貯留に関連した非効果的気道浄化

 

患者の目標(成果目標)
・効果的な咳嗽法を自ら実践することが出来る。
・体位ドレナージを実施出来る。

 

♯C に対する観察計画(OP)

(1)現在の呼吸状態

 ①呼吸数、リズム・深さ


 ②呼吸音の聴診・胸郭の動き
  ・肺雑音(気道内分泌物の有無)
  ・呼吸音の減弱、消失
  ・呼気の延長
 (根拠)呼吸音の減弱、呼気の延長は気道閉塞の症状である。


 ③呼吸困難の程度


 ④痰の量、性状・喀出状態


 ⑤血痰、喀血の有無、量・性状
 (根拠)膿性痰は喀出が困難である。また、粘液栓を形成し、無気肺を起こす原因になる。
 (根拠)痰の性状の変化は、感染の状況や抗生物質に対する起因菌の耐性を示すことがある。また、常に痰を伴う咳嗽が持続する場合には、水疱音の有無を聴取する。
 (コメント)気道感染をしている場合に膿性痰が多量に喀出される。

 

 ⑥ばち指


 ⑦酸素飽和度(SpO2)


 ⑧冷感、チアノーゼの有無
 (根拠)血液中の酸素量が低下するとその代償として、心拍数と呼吸数が増加させ、血液中の酸素量を増やそうとする。しかし、四肢への循環血液量が低下するため、四肢の冷感とチアノーゼが出現する。


⑨心拍数の変化


⑩胸部X線所見


⑪動脈血酸素分析
 (コメント)SpO2は動脈血ガス分析値、パルスオキシメーターで非侵襲的に低酸素血症の観察を行っていく。


⑫呼吸機能検査
 (根拠)痰による気道閉塞は、低酸素血症の原因となる。

 

 

(2)感染兆候の確認

①発熱の有無
 (根拠)起因菌が視床下部を刺激することにより、体温を上昇させる。

 

②血液データ(CRP、白血球数)

 

③痰培養

 

(3)痰喀出方法の確認

①患者が実施している方法とその効果
 ・咳嗽運動
 ・体位ドレナージ

 

 

♯C に対する看護ケア計画(TP)

(1)痰喀出のための援助

 ①痰喀出の励行
  ・咳嗽運動による痰喀出
  (コメント)適切な咳嗽は、疲労やストレスを軽減することが出来る。


  ・体位ドレナージ
 (コメント)体位ドレナージとは、痰が貯留している部位を上にする体位をとることで痰の喀出を促す。


  ・スクイージング
 (コメント)呼気時に胸郭を圧迫し、気道内分泌物の移動を促す手技のことである。


・体位変換

・口すぼめ呼吸

・横隔膜呼吸法(腹式呼吸)

・気道の加湿
 (根拠)気道内分泌物が固まると気道壁からはがれにくくなるため、気道閉塞の原因となる。よって、気道内を加湿することで痰を水様性にすることで、痰が喀出しやすい状態にすることが出来る。


・水分摂取(2~3ℓ/日)

 

②口腔ケア
 ・ブラッシング(3回/日)
 (根拠)口腔ケアを行うことで、口腔内の雑菌の数を減らす。そうすることで気道内に細菌が侵入することを予防することが出来る。

 

③薬物療法
 ・抗菌薬、去痰薬、気管支拡張薬など
 (コメント)急性増悪の場合は、起因菌を特定し治療が開始される。抗生物質(抗菌薬)は繰り返し使用することで耐性化するので注意が必要である。
(根拠)吸入副腎皮質ステロイドは、痰の量を減らすことができる。

 

④酸素療法

 

 

 

 

♯C に対する教育計画(EP)


(1)呼吸機能を回復・維持する為の援助

 ①呼吸リハビリテーションについての説明
  ・目的、方法、注意点の説明
 (コメント)患者と一緒に実施しながら説明することで、理解を得る事が容易になる。

 

 ・呼吸法(口すぼめ呼吸、横隔膜呼吸法)
 (コメント)呼吸法に集中することで、呼吸数を減らすことが出きる。すると、呼吸をコントロールする感覚を得ることが出来る。

 

 ・筋力トレーニング
 (根拠)全身の筋力を高めることで、呼吸筋の機能を改善し、呼吸困難を減らすことが出来る。


 ・マッサージ、リラクセーション


 ・体位ドレナージ
 (根拠)重力により痰の喀出をしやすくなる。

 

 

(2)気道感染を予防する為の援助

 ①感染症予防の重要性と予防法の説明
 (根拠)気管内の痰を喀出する呼吸筋の低下や痰の停滞などにより、気道感染しやすい状態である。よって、感染症予防をするための援助を必要とする。

 

 ・手洗い、咳嗽


 ・マスクの着用


 ・感染している人との接触を避ける。

 

 ・清潔な物品の使用
  

 ・十分な休息

 

 ・バランスのとれた食事
 (根拠)疲労などから食欲不振となり、栄養摂取量の低下を起こすことがある。
 

 ・確実な内服
 (根拠)長期間にわたり抗菌薬の内服を継続していることが多い。そのため、自己判断により、内服を中止してしまう場合がある。


 ・ワクチン接種
 (インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなど)
 (根拠)インフルエンザなどは急性増悪を起こす頻度が高い為、あらかじめワクチン接種を勧めていく必要がある。


 ・禁煙(副流煙も吸わない)
 (根拠)喫煙は気道を刺激し、痰を増加させる。また、繊毛運動で低下させる。

 

 

 


♯D 健康状態に関連した不安

患者の目標(成果目標)
 ・不安を言葉で表出することが出来る。
 ・不安の軽減する方法を実施する事が出来る。

 

♯Dに関する観察計画(OP)

(1)血痰や喀血、呼吸困難の有無と程度

 ①血痰や喀血の色・色調、性状
 (根拠)慢性的に気管支拡張した気道粘膜下に血管が新生する。また、新生血管は通常の欠陥に比べ脆く、破綻しやすい場合が多い。気道感染により咳嗽が増悪すると、気道内に圧力がかかり、新生した欠陥が破綻し、出血を起こす。大量の喀血は、気管支動脈系からの出血であることが多い。

 

 ②呼吸困難の程度
 ・胸部、咽頭部の不快感
 ・咳嗽の程度
 (根拠)気道の炎症により、気道閉塞を引き起こすため、呼吸困難を生じる。

 

 ③バイタルサイン
 ・心拍数、血圧、呼吸数
 (根拠)呼吸の仕事量が増加することにより、日常生活に支障をきたす。

 

(2)不安を表す行動の程度

①自覚症状
 ・不眠
 ・落ち着きの無さ
 ・集中力の低下、散漫
 ・イライラ患
 ・食欲不振
 (根拠)喀血や呼吸困難は死を連想させるため、不安を引き起こす原因になる。不安は呼吸数や心拍数を増加させ、酸素消費量を増加させる。また、不安は呼吸困難の引き金になり、呼吸困難は不安を増大させる。不安な状態は交感神経優位になる。

 

 ②他覚的症状
  ・表情、言動
  ・睡眠障害
  ・食事摂取量

 

 

(3)疾患治療に関する理解度

(根拠)疾患・治療に対する理解は、セルフケアを促進させ、不安を軽減する。

 

(4)ストレス対処行動

 

 

 

 

♯Dに対する看護ケア計画(TP)

(1)症状緩和の援助

 ・温度、湿度、空気清浄
 (根拠)気道への刺激を減らし、咳嗽の頻度を減らす。

 

 ②喀血への援助
 ・上半身を起こすか、顔を横に向け吐き出しやすくする。
 (根拠)気道内に血液が貯留する事を防ぎ、排出しやすい状態にする。

 

 ・冷水による口腔内の含嗽
 (根拠)冷水で咳嗽することで、爽快感が得られる。

 

 ・吐いたものは。すぐに処分する。
 (根拠)吐物は不安につながるため、不安の軽減につながる。

 

 ・出血部位を上にした側臥位とし、冷罨法を行う


 ③呼吸法の実施
 ・口すぼめ呼吸
 (根拠)呼気時に口をすぼめることにより、初期流速を低下させ、気道内圧を上げることで気道閉塞を予防する。


 ・横隔膜呼吸法
 (根拠)上半身を起こすことで横隔膜運動が容易になる。横隔膜を使うことで呼吸数を減少させ、肺胞の換気効率の改善を図ることが出来る。

 


(2)不安を緩和するための援助

①安心感を与える環境
 ・静かな個室
 ・医療機器が視界に入らないようにする
 (根拠)重症な患者や不安の強い患者との接触はあ患者の不安を増強させるリスクがある。また、視覚的な刺激を少なくすることで安心感を確保する。


②患者が現状をどのように認識しているのか把握し、理解する

 

③側に付き添い、思いやりをもって傾聴する。
 (コメント)患者から見て、必要な時にいつでも必要な援助を得られるという安心感を感じられる必要がある。

 

④リラクセーションなどの不安緩和の介入をする。
・マッサージ、音楽、アロマテラピーなど

(コメント)呼吸困難感の少ない時に実施する。

 

(3)適切な情報の提供

 ①パンフレットや患者教育のビデオ
 ②質問や不明点に関しての丁寧な説明

 

 

 

 

♯Dに関しての教育計画(EP)

(1)呼吸法(口すぼめ呼吸、横隔膜呼吸法)の説明

 ①効果的な呼吸方法を説明し、患者と一緒に実施する。
 ②呼吸法で呼吸困難は軽減できることを説明する。
 (根拠)呼吸法によって呼吸困難が軽減するという認知は不安の軽減に役立つ。

 

(2)不安の表出のための援助

 ①不安な内容を言葉に出して表現するように説明する。
 ②緊張の緩和に適した気分転換の方法について説明する。
 (根拠)緊張の緩和は、不安、呼吸困難を軽減することが出来る。